しがらみとグローバリゼーション

日本通運の成長力復活に寄与した「しがらみを断つ」ことと、昨今のグローバリゼーションとについて、少し考えてみましょう。

6月26日の日経新聞電子版の記事では、日本通運よりも利益率の高い企業としてヤマトホールディングがあげられていました。ヤマトホールディングの16年3月決算予想での売上高営業利益率は、「しがらみを断」った日本通運よりも高い5%前後を見込んでいるとのことでした。この両社を、「しがらみ」という観点から比較してみましょう。

<h2>日本通運について</h2>

二つの会社のホームページで役員の経歴を見てみます。まず日本通運ですが、現在の会長、社長、副社長三人の計五人は、すべて日本通運に入社して現在のポジションについています。同社の幹部になった人を数年間にわたって調べたわけではないのですが、ここ数年は日本通運以外の会社から日本通運に移って幹部になった人がいないとしておきます。その前提でお話しますと、日本通運に入社し、若い頃から物流業界に長い間身を浸していると、仕事の上で、それなりにいろいろな関係ができるでしょう、個人的な関係も出来てくるでしょう。いわゆるしがらみも、本人の意図如何に拘らず、醸成されていたのではないでしょうか?更に、日本通運は1937年の「日本通運株式会社法」に基づく国策会社として発足しているというのも関係があるかも知れません。

<h3>ヤマトホールディングの社長について</h3>

次にヤマトホールディングについてです。少し古いのですが、2013年6月3日のDOL特別レポートに、2011年にヤマトホールディングの代表取締役社長に就任した木川氏の「常時革新の秘密を聞く」という趣旨でのインタビュー記事があります。それによると、木川社長(当時)は、2005年にみずほコーポレート銀行(当時)の常務取締役から、ヤマトホールディングの常務取締役として移籍し、非常に規制の強い金融業から、基本的に規制の束縛から解放された運輸業に移って自由な競争ができると感じていたようです。「自分がやりたいと考える戦略を具体的に前に進めることができるということは、銀行から来た人間から言えば開放感があります」と述べています。 金融業界から転職した木川氏は、物流業界でのしがらみには無縁であったろうし、仮にあったとしても、金融界からの転職ということを見ると、どちらかというと、金融業界での優位な立場からのしがらみであったように想像できます。あくまでも仮にあったとしてもです。インタビューの中では、創業者であり、路線事業という新しい業態に日本で始めてチャレンジしたり、宅急便事業を始めたりした、創業者とそれに続く先輩社長の行動原理をヤマトグループの変化し続ける原動力として賞賛していますが、2008年のリーマンショックの年に、初めて宅急便の取り扱い個数が前年割れをした危機を乗り越えたのは、社長就任前からの同氏の活躍に負うところも多々あったと思われます。社長就任の二年間と就任中の四年間は、2014年3月期の4.6%を除き、全ての期間で5%以上の営業利益率を維持しています。「自分がやりたいと考える戦略を具体的に前に進める」ためには、しがらみを持たない人の方が、やりやすいポジションにいる、と言えるでしょう。尚、2015年4月、社長はヤマトの生え抜きの人が社長になり、木川氏は会長になっています。

<h4>グローバリゼーションの環境下での貨物利用運送業務の拡大の可能性</h4>

日本通運のしがらみ断ちとは、むしろ物流業界に押し寄せてきたグローバリゼーションの波への対抗上から、やむを得ぬものであったように思われます。しがらみは、狭い領域内で通用しても、広い範囲では経済合理性が優先し、いわゆるしがらみなしのビジネスライクな付き合いかたをしなければ、競争原理から振り落とされる危機感があったのではないでしょうか? そこで大手物流会社とはしがらみを持たない、貨物利用運送業務従事者にとっては、日本通運のような大手物流会社の組織変更により、利用運送業務の拡大を期待することは、前回にも述べましたように困難でしょうが、グローバリゼーションという環境下では、しがらみなしのビジネスライクな関係で、業務を遂行していけるという事ですから、ある意味では、ビジネスチャンスが広がると言えるかも知れません。それは、これまでは狭い領域内(例えばしがらみ)を通してしか得られなかったビジネスに必須の情報の多くが、昨今ではインターネットを通じて、努力と時間を惜しまなければ入手できるようになっています。その情報の範囲も広がってきて、ビジネスチャンスを捕まえられる可能性が高まってきているのではないでしょうか? 上げたり下げたりの話しになってしまいましたが、小さくても、開いたしがらみの隙間に手を差し込み、関連情報取得によりそれを広げ、更に知恵をまぶして、しがらみに大きな穴を開けて、ビジネスチャンスを広げるていけないでしょうか。むしろ、しがらみが通用しないグローバリゼーションの環境下で、ロジスティクスのベストマッチを提供できる貨物利用運送業務を拡大するチャンスがあるとも言えそうです。