11兆円超の消費者向け電子商取引市場規模(平成25年度)には、利用運送や実運送が発生しないサービス業が含まれている。

前回の6月11日公開の記事を除き、これまで、大型物流設備とネット通販事業の関連性について注意すべき点のお話をして参りました。

今回は、国内で11兆円を越えたと言われる消費者向け電子商取引の市場規模について、その中に含まれてはいるものの、利用運送や実運送が発生しそうにない、又は発生してもごくまれであろうと思われる業種を取り上げてみましょう。そしてその業種の電子商取引市場の規模を金額面から見てみましょう。尚、以下はすべて消費者向け電子商取引に関するものであって、企業間電子商取引の市場は含まないものとします。

5月22日公開の記事で、「13年には消費者向け電子商取引の国内市場は11兆円を越えた」と報道されていることをご紹介しました(5月18日付け日経新聞電子版)。日経新聞電子版の記事は、経産省の報告書(注1)をその根拠としていると思われますが、そうだとすれば、その報告書(以下「経産省報告書」と称します)に記載されている11兆円を超える市場規模の対象業種として、小売業、サービス業、建設業、製造業、情報通信業、運輸業、金融業、その他、の八つが挙げられています(報告書57ページ)。この中で「建設業」については、経産省報告書60ページでの市場規模を示す欄がN.A.(Not Available)となっており、具体的な数値が示されておりませんので、実際にはこの建設業(注2)を除いた、七分類での合計が11兆円を越える市場規模ということになります。

この七つの業種のうち、利用運送や実運送の業務の発生という観点からは、注意すべき業種がいくつかあります。今回はまずサービス業について見てみましょう。

サービス業の中には、小分類として、宿泊・旅行業、飲食業、娯楽業が含まれています。宿泊・旅行業について、パソコン、タブレット、スマートフォン、フィーチャーフォンなどにより、インターネットを用いて、鉄道などの切符を予約するような電子取引が成立するケースを想定してみますと、これらの支払いにクレジットカードを使用すると、切符を自宅に送付してもらうような特別な手配をしない限り、ほとんど利用運送も実運送も発生しません。電子取引成立後は、実際に乗車する駅でチケットを発行してもらうことができるからです。

又、高速バスなどのチケットの場合も、インターネットを用いて予約した後、自分のプリンターでサイト運用者から送られてくる、予約確認のメールをプリントしてその印刷物を乗車時に提示するだけで済んでしまいます。プリンターが無くとも、コンビニでの支払いを選択して、最寄りのコンビニまで出向き、支払いをすると、コンビニでチケットが発行されその場で受け取ることができるようになっています。

日本の消費者に関して、電子商取引を利用する理由として、一位の「実店舗で買うよりも価格が安いから(64.1%)」に次いで、「店舗までの移動時間、営業時間を気にせず買い物ができるから(63.5%)」となっている(経産省報告書103ページ)ことからみても、ほとんど利用運送や実運送が発生していないのではないでしょうか。

次に、映画館などの娯楽業などについてもほとんど、利用運送や実運送が発生するようには思えません。余談になりますが、通信を用いた消費者との取引の先進国であったアメリカでは、30年以上前、1983年当時、例えばミュージカル『コーラス・ライン』のチケットを取るのに、電話で予約し(まだインターネットは個人レベルではありませんでした)、クレジット番号を伝えて、そのままシューベルト劇場(随分前に閉館しましたが)に行き、ピクチャーID(写真付身分証明書)を見せると、その場でチケットが手渡され、劇場に入れました。この場合はパソコンなどでの電子商取引ではなく、電話での通信販売となるのでしょうが、このような形態の取引が、現在日本でもインターネットの普及で成立が可能になっているのです。

又、この宿泊・旅行業及び飲食業に関しては、「宿泊・旅行業・飲食業が2012年に対して2013年は122.1%成長している」こと、及び、宿泊・旅行業、飲食業、娯楽業のすべてを含んだサービス業に関して、「サービス系の電子商取引での購入に関する利用品目では、「各種チケット」が61.7%、次に「旅行サービス」の58.1%となっている」ことも付記しておきます。

このように、宿泊・旅行業、娯楽業などのサービス業についてはほとんどの場合、利用運送や実運送の発生が期待できません。上記の宿泊・旅行業と娯楽業とを合わせた、サービス業の市場規模として約2兆円が、国内市場11兆円の中に含まれております。これは全体の17.8%にもなります。市場規模の数値の詳細は下の(注3)欄に記載しておきます。

念の為、書き加えておきますと、電子取引の市場規模とは、電子取引「金額」を意味します。又、経産省の報告書での「EC」すなわちElectric Commerceである電子取引の定義では、「決済がコンピュータネットワークシステム上で行われることを要件とはしておらず、決済手段は問わない」となっています(32ページ)。

いくら消費者向け電子商取引の市場規模が11兆円をこえたからと言っても、このサービス業の様に、ほとんど利用運送なり、実運送が発生しそうにないものも多く含まれている事に、利用運送業や実運送業に携わる皆さん、又は消費者向け電子商取引の市場の拡大を念頭に、今後関わっていこうとされる皆さんに注意を促していただければと思います。

(注1)『平成25年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 (発表日:平成26年8月26日)
尚、経済産業省から、平成27年5月29日付けで、平成26年度の国内Btoc-EC市場、すなわち消費者向け電子商取引の市場規模を12.8兆円とする調査報告書がアップされましたが、本ホームページの5月22日公開記事からの一貫性を保つため、本記事は、平成25年度の市場規模をベースにしております。
(注2)経産省報告書60ページの「市場規模の業種別内訳」を示す表では「建築業」と表現されていますが、同57ページの「市場規模推計の対象業種」のところに示されている「建設業」と同じものを示すと解釈していいでしょう。
(注3)宿泊・旅行業と飲食業を合わせた市場規模として1兆8260億円で、全体の市場規模である11兆1660億円の16.4%を占めます。又、娯楽業の市場規模は1660億円で全体の1.5%を占めています。これら宿泊・旅行業と娯楽業を合わせたサービス業の市場規模として1兆9920億円となり、消費者向け電子商取引市場全体の11兆1660億円の17.8%になります(以上すべて2013年度のもの)。