会社の維持・成長に貢献する利益、会社を毀損する見せかけの利益

会社の維持・成長に貢献する利益、会社を毀損する見せかけの利益

昨今の東芝不適切会計問題を目のあたりにしますと、利益とはいったい何かと考えさせられます。利益には、会社の維持・成長に貢献する利益と、会社を毀損する見せかけの利益とがあるようです。以下少し長いですが、他山の石となれば・・・。

会社の維持・成長に貢献する利益

会社の維持・成長に貢献する利益とは、純粋な経済活動の結果、即ち、需要を満たす供給により、需要者と供給者の双方が「経済的に」満足した結果が、適正に当事会社の財務諸表に記帳される利益と言えるでしょう。供給者からみれば、供給物が部品であれ、製品であれ、サービスであれ、供給物の対価と供給物の入手に必要だったもろもろの費用との差額が、適正に記帳されて、初めてこのような利益になります。需要者からみれば、受領した物が、部品やサービスであれば、それを利用する自らの生産活動の準備、商品であればその転売の準備という、いわば会社の維持・成長に貢献する利益を生み出す準備ができるのです。会社の維持・成長に貢献する利益は、その適正な配分により、会社の株主、債権者、取引先など、関係者の全てが、その享受者となります。

会社を毀損する見せかけの利益

会社を毀損する見せかけの利益もあります。経済的な取引実態の有無に拘らず、損益計算書のボトムラインの数字の嵩上げのみを目的として、帳簿上の数字を意図的に操作したり、複雑な取引関係の中にトリックを組み込んだりして得られる、財務諸表上に表現されるものがこれに当たるでしょう。
東芝不適切会計問題での、インフラ事業部門においての一例は、長期プロジェクトの採算を管理する「工事進行基準」と呼ぶ会計処理をする際に、意図的な操作が行われていました。期間対応していない売上げの過大計上や費用引当金の過少計上などで、利益の嵩上げを行っていました。パソコン事業部門においては、部品の調達コストに上乗せした価格で、完成品製造業者に販売し、その差額を利益として計上していました。この「利益」は完成品を購入する段階で、完成品の購入価格の増額となって、結局相殺されるのですが、部品の完成品製造業者への販売時期と、その業者からの完成品の購入時期がずれることによって生じる見せかけの利益を、引き当ても取らずに前倒して計上していました。はては、必要以上の部品を完成品製造業者に買い取らせて、利益を生み出したりしていました。このような部品の押し込み販売による見せかけの利益は、当期の本来の利益でもなければ、翌期以降の利益でもなく、それゆえ利益の前倒しでもありません。

会社を毀損する見せかけの利益は、利益として会社に留まらない

会社を毀損する見せかけの利益は、当面は、会社の維持・成長に貢献する利益と同様な効果を見せます。しかし、それは一時的には通用しても長続きはしません。
東芝のインフラ事業部門では、工事原価の見積総額が増加して、初めから最終的には損失が出るのがわかっていながら、費用の増額を認識しなかったり、費用の引当金を後ろに倒して、当期利益だけをよく見せていたりしていましたたが、そのようなケースでは、いずれは損失が露呈してしまいます。
パソコン事業部門では、完成品に必要な部品の販売額と部品調達額の差に基づく、帳簿上の見せかけの利益は、近い将来、完成品の第三者への売上げが実現すれば、その段階で、本来の利益から、記帳済みの見せかけの利益と同額が圧縮されて、年度末では、その経緯も霧散し、正味の利益になる可能性もあります。しかし、ある期間内に完成品製造業者に販売した部品の全てが、完成品に使用され販売されるということはなく、どうしても期末には部品の販売による見せかけの利益が残ってしまいます。さらに、必要以上の部品の押し込み販売なども行なわれて、そこから生ずる見せかけの利益は、完成品の製造に利用されるまでは、帳簿上残りますが、その期間は、押し込み販売を受けた相手方の費用すなわち損失として留まるのです。会社の維持・成長に貢献する利益のところで述べた、「需要者と供給者の双方が『経済的に』満足した』結果は生じていないのです。今回のケースでは押し込み販売を引き受けた相手方は、子会社という位置付けですから、キチンと連結決算されていれば、相殺されるようなものですが、そうはなっておらず、さらにその子会社が海外法人でもあり、まさに国際的な複雑な取引形態の中に組み込まれていたのです。

会社を毀損する見せかけの利益の創出に関わった人達の心境は如何に

上記のような対応をしていた事業部門では、最終的にどのようにケリをつけようとしていたのかわからないのですが、上司の指示に逆らえない風土と言われる中、心苦しい毎日を送っていた人も多くいたでしょう。
不必要な部品の押し込みに基づく見せかけの利益については、いつかは部品が使われるだろう、最後はなんとかなるだろうという期待、また、完成品に使用された部品に関わる見せかけの利益については、完成品が販売されれば、期間対応の原則違反という点は残るものの、いずれ完成品が第三者に販売されて、経緯も霧散するだろう、そんな淡い期待を持っていたのかも知れません。しかし、もともと高い経済成長が見込めない昨今では、いずれの期待も本当に淡いものとなったのでした。

会社を毀損する見せかけの利益の影響

見せかけの利益を計上することにより、会社を毀損する損失はどのようなものがあるのでしょう。
まず、不適切な会計処理と認定されれば、通常の経済活動をしていれば支払わなくともよい課徴金を科せられます。
また、国内外からの株価下落による集団訴訟が発生すれば、窓口的・法律的には、法務部が対応するのでしょうが、その対応に際して具体的には、事業部門への資料提出要求など、本来であれば事業活動に注入し得る従業員の時間とエネルギーを使わざるを得なくなり、見えざる負の影響を与えるのは必至なのです。仮に最終的に、訴訟で見せかけの利益に関わった者の私的財産から会社への賠償が実現されたとしても、訴訟対応などで費消された会社の人的・物的損失は戻ることはありません。
仮に今回の事例のように、トップから強烈な指示なりプレッシャーを受けて、意に染まぬ仕事をやってしまった部長級の人などの実務者が、社内的に懲戒処分などを受ければ、その人達のモチベーションは下かるでしょう。これも会社の将来の事業活力を毀損することになります。
更に、役員や従業員の報酬について成果主義を採用している場合を考えてみますと、会社を毀損する見せかけの利益が、通常の利益に見えていた期間に、見せかけの利益を根拠に業績の評価が行われ、報酬や賞与などが支払われていれば、それは受領した人達の手元に残ります。これも本来であれば会社から流失すべきものではないでしょう。これらの毀損は、第三者委員会の報告書の対象期間である過去五年間に限定されることではないのですが、見せかけの利益に基づいて支払われた報酬が返還されることはなさそうです。この部分も会社を毀損しているのですが。

貨物利用運送業においては、見せかけの利益の可能性を排除しよう

貨物利用運送業務とは、発送人の貨物運搬義務を果たさせ、荷受人が貨物を入手するベストな方法を提供することにあるのですから、今回の問題のような、工事進行基準による会計処理も発生しないでしょうし、部品の有償社給による売上げ計上・利益の前倒しの問題もないでしょう。しかし、貨物利用運送業に携わる皆さんは、社員や従業員に対しては「信ぜよ、されどチェックは怠るな」の心構えで日々の経営を遂行して頂き、仮に、経理的にボトムラインが悪化するような処理でも、長期的な視点から「会社の維持・成長に貢献する利益」の追求を目指して頂きたいと思います。学生の理屈だ、現実はもっと厳しいという声も聞こえてきそうですが、一つだけ皆さんの頭の片隅に残して欲しいことがあります。今回の事件では刑事訴追はないだろうという報道と、あるだろうという報道が、相半ばしているように思えます。1500億円以上の利益の嵩上げをしていたけれども、国策と言われている原子力事業を担っている会社の役員は、刑事訴追されないかも知れませんが、その30分の1以下の50億円の粉飾で刑務所に入った人もいると事実です。